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【総研セミナーレポート後編】訪問看護ステーションにおける教育体制整備について:教育者・管理者育成と質疑応答まとめ

こちらは2022年2月8日(火)に行われたソフィアメディ在宅療養総研セミナーのレポート記事です。セミナーには185名の参加申込みがあり、訪問看護業界における教育体制整備への関心の高さが伺えました。訪問看護の管理運営に関わる管理者や教育を担当されている方だけでなく、訪問看護教育に関する研究調査をされている方々が参加され、訪問看護業界における教育体制について多角的な意見が飛び交う会となりました。

▼前編記事はこちら
【総研セミナーレポート前編】訪問看護ステーションにおける教育体制整備について:新入社員研修や教育体制をどのように構築しているか

丸山らの報告(2017年)によると訪問看護ステーションにおいて、人材育成は管理者が行っている割合が多く過半数のステーションで管理者が実施しているようです。プリセプターや教育担当者を設置しているのは約1割程度と低く、管理者への負担が高い傾向が伺えます。

引用
丸山:訪問看護ステーションにおける訪問看護師の現任教育の実態と課題(2017)
https://media.sophiamedi.co.jp/wp-admin/post.php?post=726&action=edit

一方で訪問看護ステーションの管理者は業務数が非常に多く、新人や現職スタッフへの育成に余裕があるわけではありません。中途採用者が多い領域ではあるものの、病棟看護とは大きく対応内容が異なる訪問看護において、適切に育成を担当できるスタッフの配置や育成に関して学ぶ機会を設ける必要性は高いです。

しかし、神奈川県訪問看護推進協議会の調査(2014年)の報告によると、管理者育成のためのプログラムを導入しているのは10.9%程度となっています。教育者・管理者への育成を体系的に実践している事業者が少ないため、どのように体制整備をしていくとよいのか悩みを抱える事業者が非常に多いことが考えられます。

引用
2014年度 在宅医療(訪問看護)推進支援事業
https://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/life/951216_3011643_misc.pdf

セミナー後半では訪問看護ステーションで新人や現職者を育成するスタッフをどのように育成し、支えているのか、教育・管理者への育成や支援体制についての実践を具体例を交えてお話しいただきました。


テーマ③教育者・管理者への育成をどのようにしているか

中川さん:
看護師やセラピストとして人をケアしていく能力と、人を育てる能力は別物ですよね。そうした新たに獲得が必要な能力は業務を積み重ねているだけでは育めません。一方で育成を担当するスタッフや管理者に対する育成機会や支援体制については不十分であるとされる報告が散見されます。ソフィアメディでも中堅以上の教育者研修や管理者育成は強く課題認識をしています。管理者になってから、教育者になってから、ではなく、次世代リーダーとしてできるだけ早めに育成ができるように研修を設けています。また現管理者等にも月に一回程度は研修の機会を設けています。次世代リーダーとして管理者等になる前の研修と、なった直後の新任管理者研修、そして現職管理者への研修と必要な時期に必要な研修を設けています。

また管理者にもOJTが必要だと考えていて、実際にベテラン管理者が新任管理者等へOJTを行う仕組みを設けています。ステーションの運営は管理者の能力だけでなく、ステーションの特徴やお客様の症状レベル、地域の特性等さまざまな特徴があります。そのため管理者だけではなく、ステーション全体を見渡しながら健全に運営していくための指標を設けて可視化しています。また新任管理者だけでなく、管理者として悩む場面も多々あるため、可視化したステーションの運営状況に合わせてサポートすることもあります。

新しいスタッフがたくさんいたり、離職が続くことで人の出入りが多い時期の負担感や、看護記録や書類関連にあてる時間のモニタリングなどを通して、負担が多い時に、サポートを専門にする本社のベテラン管理者チームでステーションの後方支援をするようにしています。全社でステーションを育て支えていくというスタンスで、できるだけステーションのみなさんに任せっきりにならないように、いろいろリソースを使いながらやっています。

岩本さん:
ウィルでは形式上の管理者はいますが、専任の管理者や教育者はおらず、基本的にフラットな体制でサポートしあっています。教育者育成というよりは、中堅やサポーターへの取り組みになりますね。

WyL株式会社提供資料 フラットな関係で中堅やサポーターを支援

ひとつは実践能力を大事にしています。訪問をして目の前の人にケアすることを続けていく、あと一歩できるようにする、この繰り返しだと思います。看護技術だけではなく、医療安全や倫理面、ハラスメントの対応なども実践のうちだと思うので、取り組みにも力を入れようと準備をしています。うちではチームで意思決定していくことが多いので、人の話をちゃんと聞けるか、改善してほしいところをどう伝えるか、建設的に話し合って決めていく、合意を取るフレームワークを習得するなど、こうしたことが教育者育成に当たる部分なのかもしれません。


テーマ④参加者からの質疑応答

Q1>
入職1か月目で何件の同行訪問をしているのか、その後はどのくらいでひとり立ちしていくのか、目安などはありますか。

岩本さん:
最初の1〜3か月くらいまではだいたい決まっています。1か月目は1日3件くらい同行訪問をして、残りの時間はeラーニングで座学という組み合わせです。訪問に行きはじめると現場が楽しくなってしまって、勉強が後回しになってしまうので、極力最初に座学をやりつつ、インプットしたものを現場に行って身に着けてもらえるようにしています。1か月目の最終週でひとりでいくつか単独訪問が可能なところがあればいいですね。件数でいうと、1か月目は60〜70件くらいで、10件くらい単独訪問できそうかなと。2か月目はだんだんと増えていって、3か月目あたりで7〜8割は単独訪問で行けるように。おおむね3〜4か月で、ひと月は単独訪問で組めるような目安にしています。

正直なところ、いつひとり立ちできるかは難しいです。技術やアセスメントの話か、利用者さんの受け入れの話か、いくつか軸があると思っています。ただ、管理者がひとり立ちを決定することはしていません。利用者さんを受け持っている先輩看護師がいるので、ケアの責任はその人が判断するというのが基本的な考えです。また、利用者さんのその日のケアだけではなく、一連のケアが安全にできるか、来週や来月とどうなっていくか、どういうリスクがあるかを考えて予測できるかどうかも大切ですね。そして一番大事にしているのは、困ったらちゃんと連絡をくれるかどうかです。ケアマネさんや医師への報連相のタイミングはもちろん、自信がなくてもきちんと先輩に相談できる人は、ひとりでも訪問に行かせられます。

中川さん:
ソフィアメディだと70を超える事業所がありますが、基本的な流れはウィルさんと同じですね。特徴といえるかわかりませんが、件数だけだと様々な時間提供があるので、時間をそろえて換算するようにしています。オランダのビュートゾルフのケア提供時間の追いかけ方に近いところもあるかもしれません。ショートケアやロングケア様々なので、訪問の件数だけでなく提供している時間で整理していきたいと思っています。初月は主任等への同行訪問が中心になるので、主任と同じ件数である70件くらいまでが多いです。そこから終わった後に振り返りをして内省できるように、特に最初の1か月〜1ヶ月半くらいは時間を取っています。事業所の状況次第にはなってしまうので、新規開設のステーションや欠員補填が理由で、そうもいかないところもあります。

Q2>
ラダーと給与について、昇給などはどのように組み立てているのでしょうか。

岩本さん:
がっかりするかもしれませんが、うちはラダーと給与は紐づけていません。クラシックスタイルで年次昇給、訪問看護師としての経験年数を大事にしています。オランダのビュートゾルフを参考にしていて、給料を突き詰めて最高のコスパを出すよりも、できるだけケアに集中したいと考えているからです。また、個人のパフォーマンスよりも、チームのパフォーマンスを大事にしています。個人ですごく仕事ができる人もいますけど、その人が150件訪問するよりも、10人のチームで80件、90件といいケアが継続してできるほうが重要だと思っています。これもさまざまな考え方があり、今後変わるかもしれません。

権限や責任がある管理者やリーダーみたいな人は置いていないんですが、サポーターやコーチという立場は置いています。チームのなかで困っているときに相談に乗ってくれたり、ガイドしてくれたり、周りの人を支援してくれる人です。サポーターはチーム全員の合意で選出するので、いないチームもあります。訪問看護はチームで行うものだと思うので、マネージャーがいっぱいいるよりも、訪問に行く人を大事にしたいというスタイルをとっています。

中川さん:
ソフィアメディにおいてもラダーと昇給制度は連動していません。あくまでラダーは成長過程を支えるツールとしています。

Q3>
新入社員を育成していける理想のチームの人数、また新人社員を入れるタイミングなどについて、どうお考えですか。

中川さん:
ソフィアメディは事業所で平均15人ほどスタッフがいます。新規開設で4名程度のところもあれば、大規模だと30人くらいいるところもあります。大事なのは人数よりも、管理者に次いで教えられる次世代のリーダーがどれほどいるかだと思います。

岩本さん:
規模もそうですし、チームの発達段階もあるでしょうね。発達段階が未熟だと新人さんを入れても自分たちでは対応するのは難しく、周りからリソースをもってこないと厳しいです。チームの人数が5人でも7人であっても。ただ、自律していて自主的に自分たちで問題解決ができて、看護師経験も豊富というチームの発達段階が高いと、新人が入ってもなんだかんだ自分たちで育てていけると思います。また、個人的には人数は3人よりは5人、5人よりは10人だとは思いますよね。15人以上になると他人任せみたいなことになりそうなので。ひとつの事業所の看護師の人数については、所説あります。参考にする理論もいろいろあって、軍隊の小隊は4人だし、ひとりが把握できる人数は8人だとか。最近のウィルでは、自分の経験も踏まえて、ひとチームを10人くらいにしています。

新人さんを入れる期間は極端に短くなければいいですね。最低3か月くらいでしょうか。4月は同時に数人入るのも珍しくないと思うので、チームのレジリエンスとして、チームで話し合って決めるのが大事かなと思います。新人さんを受け入れていくのは楽ではないと、負担なく業務可能というのは無理だよとチームでまず知っておくことですね。

Q4>
岩本さんはチームでのパフォーマンスを大事にしているとのことでしたが、何か指標となるようなものがあるのでしょうか。

岩本さん:
僕らの仕事は看護やケアの実践だと思っているので、利用者さんにどう介入して、どう変化があったか、維持ができていたか、みたいなところの指標を大事にしていますね。目指したいのは、ハードなエンドポイントというか、防ぐべき再入院が防げたか、などを評価できたらいいなと思っています。だけど、再入院するかは看護師だけではなく、医師や他の人も関わってきていると思いますし、想定外なこともあり、それだけでも評価するのは難しいですよね。その手前でいえば、緊急訪問率がいい水準でキープできているかどうかでしょうか。緊急率が高いと、たぶん日中のケアがよくないですよね。訪問の直接ケア時間や残業時間なども電子カルテのウィルクラウドでは出せるので、今後はその割合なども測って、パフォーマンスの振り返りができたらと思っています。絶対的な指標はないと思っていて、ある側面を組み合わせることが大事でしょうね。

Q5>
スタッフそれぞれにモチベーションや経験年数も違うなか、理念を共有して知識や技術を一定の水準にするために、どう対策しているのでしょうか。

岩本さん:
ウィルは「ミッションが大事だ!」と意識が高い人ばかりが集まっていると思われることがありますが、けっこうゆるいと思います。それぞれの理由で、それぞれの働き方がありますし…。でも、「全ての人に”家に帰る”選択肢を」というウィルのミッションに対して、過去の看護師経験のなかで「そうだよな」と思ってくれている人が、うちで働きたいと来てくれることが多いので、自然とそれが重なり合って多様性が生まれていると思っています。熱い気持ちやモチベーションはそこまで求めていないというか、生活するために仕事をしているだけ、とクールに働くのも大事だと思っていますよ。

中川さん:
ソフィアメディは理念の浸透にすごく力を入れていて、会社のミッションを大事にしているスタッフが多いですね。2002年創業当時から長く働く訪問看護やリハビリのベテランスタッフもいるのですが、そうしたメンバーが100時間以上かけて議論しながら言葉を出し合って方針をまとめた経営方針書というのがあります。みんなの共通認識として経営方針書の言葉が飛び交うことが多いので、日々の業務の中で理念が浸透していっていると思います。

宮地さん;
ステーションでは朝礼で経営方針書を読みあわせをしているのですが、そこに理念やミッションについても書かれているんですよね。共通言語としてスタッフのなかでも同じ想いを持ちながら、日々ケアにあたっていると思います。

岩本さん:
そういう意味ではうちも同じだと思います。「理念浸透のためにこれを暗唱しよう!」とはしていませんが、マニュアル的な「ウィルの歩き方ガイド」のように、いつでも立ち返るものもあります。このなかにもたくさん共通言語があって、自然と価値観というかカルチャーみたいなものができ上がっていると思います。

Q6>
先ほど出てきた臨床判断モデルの図ですが、はじめて知りました。これをしっかりと体系化できたら面白いのではないかと思いました。現在はどのように活用されているのですか。

WyL株式会社提供資料  臨床判断モデル

岩本さん:
僕もはじめて知ったときは、すごくテンションがあがりました。臨床推論などでここ5年、10年くらいで出てきたキーワードですね。ベッドサイドで看護師の思考過程がどうなっているかをモデル化したもので、うちではまだあまり上手く使えていませんが、振り返りのときに活用することがあります。訪問に行ってうまくいかなかったときに、どこまで気づけていたのか、気づいてはいたけど、異常の判断ができていたのか、何が原因で起こったのか状況解釈ができていたか、その場の介入として適切だったのか、その結果を省察、さらに解釈して…という流れです。どこで躓いたのかがわかると、もう一歩踏み込んでいけるので、教育面ではすごく意味があるものだと思っています。

ただ、現状では活用する難しさもあります。ひとつの訪問でこの瞬間、現象は無数にありますよね。ひとつひとつサイクルがまわっているので、すべてデータをとっていたら、振り返ることが多すぎてしまいます。その瞬間の看護について評価するシートもありますが、それが積み重なっていくと、ベナーの達人レベルで状況を広く・深い視野で理解し、直観的に状況を把握・判断するところに行きつくのかなと。すごく実践に直結していて、いろんな意味で管理者、教育者、先輩後輩の救いになるようなモデルではないかと思いました。

中川さん:
ご質問いただいた皆さん、回答してくださった岩本さん、吉江さん、宮地さんありがとうございました!

最後になりますが、訪問看護の教育体制はどこもさまざまな課題を抱えていて、すごく関心の高いところだと改めて思いました。多くの方とこうして意見を交わしながら訪問看護における教育について検討できたことは大変いい機会でした。また今後も総研ではこのような場を設けていきたいと思います。ありがとうございました。

[文]白石弓夏